食育・料理研究家 坂本 廣子先生
神戸生まれの神戸育ち。同志社大学英文科卒。食育を20年以上実践し、1歳から包丁を持たせることを提唱してきた食育・料理研究家。サカモトキッチンスタジオをベースに「台所は社会の縮図」として、全国各地を跳びまわり、子どもたち一緒に五感全部を使った料理教室を実践している。NHK『ひとりでできるもん!』を監修、幼児期からの食育の基礎を作る幼児の食教育の一環として、子どもにきちんと料理の仕方を教える「台所育児」のすすめ、子ども用調理器具の開発。高齢者・障害者および1人暮らしの人のための安全な調理法「炎のない料理システム」の普及など実践的な活動を行っている。二男一女、3ねこの母でもある。

今、私はいろんな「食育」に関する仕事をしておりますが、「食育」というものに最初に出会ったのは、長男がきっかけでした。 食い意地のはっている子で、食べることには人一倍興味がありました。
彼がつたい歩きのころ、当時、私の家は公務員宿舎で 家が狭く、台所と隣部屋がほとんど一緒、すぐのところにあるような住宅だったので、子どもの範囲から常に、台所と台所にいる 私が動いているところが見えるような環境でした。彼の世界の中では、私が料理をしている姿は当たり前だったんです。

 

11か月の頃のある日、「それ(包丁)を持ってみたい」としぐさで訴えてきました。「そうかやりたいのか」と思い、おもちゃの包丁を 渡したんですが、それは違うと怒ったので、本物の包丁を渡すと、今度は切るものがないと、また訴えてきました。 私も初めての子どもで、子どもにとっても初めての親なので何もわからなかったのですが、切り始めて、あっというまに1歳5か月で きゅうりが切れるようになりましたね。「子どもってこんなものか」と思っていたら、あとから「お宅のお子さんは変わっている」と言われ、最初は何が変わっているかわからなかったんです。

 

それがわかったのが、3歳のとき、水族館へ遠足に行ったときのことです。当時の水族館は今のようにいろんなお魚がごちゃ混ぜでなく、鯛は鯛の部屋、ぼらはぼらの部屋と、それぞれに別れていました。すると、うちの子はあなごを見て、「これは白焼きにするといい」とか、それぞれの魚の部屋ごとに調理方法を説明してまわっていました。「あぁ、確かに変わっているかな」と思いました。でも、子どもというのはすごくできるものだし、子どもを信じるということがすごく力になると思いました。

 

ある日、公園に遊びに行ったときにも、公園で砂遊びといえば、普通なら砂団子を作るものなんですが、うちの子はお米をとぐことから始めたんです。「やっぱりうちの子は違うかな・・・」と思ったんですが、子どもだからといってごまかしたりするんではなく、本物を渡すと子どもはどんどんできるようになると確信しました。

子どもの手は大人の手と違ってグリップを利かせた動きがしにくいんです。

 

子どもは、作業をしてうまくいかないときに、その理由が「道具がわるいからだ。」とは考えません。

 

子どもを悲しませないためには、子どもにあった道具が必要なのです。

一緒にやってみたい!
包丁
たとえば包丁。子どもが使いやすいように、刃の部分が全部まな板にぴったり付く。
柄の重心が前にあれば、少しの力でもきれいに切れます。
  • 取っ手
  • 高さ
  • 丸み
スプーンは五指で持つもの。すくい上げる時のカーブが大切なんです。 きれいに食べる身のこなしも自分でみつけなくてはならない。まっすぐなスプーンだと上握りや下握りで持ちたくなる。フォークも突き刺さらないフォークが多い。カーブがついてグサッと刺さるもの、ナイフもよく切れるきちんとしたものを渡して、後は見守ってあげてください。

さいばしの代わりになるものにトングがあります。

これなら子どもの手の動きで確実につかむことができます。

食器を食べきれる容量で子どもの手に合わせた大きさと深さを選んであげることで、気持ちよく食べられます。軽く手になじむものであれば余分な力を入れないで、姿勢よく食べられます。

使いやすい道具を渡すと子どもは美しく食べる基本の動きを自分でみつけていきます。美しく食事ができることは一生の宝物。 人が一生よりよい生き方をしていこうと思ったときに、自分の体が自分の思うように使える気持ちがあるかないかで自信が違ってきます。

 

そこで、その身のこなしが美しいとなおいい。すごく大切なことは美しさに気がつく人生であってほしい。学ぶことがとてもすばらしいと思える人生であってほしい。このへんでいいやと、自分の力をいかさないままの人生でいいのか。


自分たちが子どもたちに伝えたい。まずはちゃんとした本物に出会わせ、それがきちんとできるように説明をしてあげたいです。